<お米作りの様子

 <はじめに>

お結び自然農縁は、信州 安曇野の松川村で北アルプスの雄大な山々に見守られ、また多くの恵みをいただきながらお米作りをさせていただいています。松川村のお米は美味しいとよく言われます。隣の大町市や安曇野市に住んでいる方も、皆、口を揃えて言います。移住して間もない頃、そんなに変わるものなのかと不思議に思ったものです。これまでいろいろなお米を食べてきましたが、あまり美味しいと言わない私が、松川村のお米を食べてみて確かに美味しいと感じました。

その美味しさの秘密はなにか?恐らく、松川村の「風土」そのものが、美味しいお米を作りだす条件を備えているのだと思います。

標高が高い

松川村は、全国的に見て、日照時間も長く、標高が600m前後と高いため昼夜の寒暖差が大きいのです。(全国で標高が500m以上の農地はわずか5%です。)植物は昼間の光合成によって養分を蓄えるため、日照時間が長い方が美味しい作物が出来やすくなります。夜は昼間にためた養分を使うため、夜温が低いほうが夜間のエネルギーの消耗が少なくなります。ゆえに昼間の光合成で作られた栄養分がしかっりと蓄えられるのです。また標高が高いため、生育中の気温も比較的低くなるので、成長がゆっくり、じっくりと進みます。生育期間は長くなりますが、その分、栄養はたっぷりと蓄えられ、濃縮された旨味のある美味しいお米になるのだと思います。

冷涼な空気と清冽な水

3,000m級の北アルプスから冷涼な空気が田んぼに流れ込んで来ます。従って昼間は暑くても、夏でも朝夕は涼しいのです。この冷涼な空気が実をしっかりと引き締めるので、それが美味しさアップにつながるんだと思います。また北アルプスの山々から流れ出るミネラルたっぷりの冷たい雪解け水がいっそうお米の味を引立てるのだと思います。松川村ではこれらのことが、お米作りにとって絶妙なバランスになっているので、周辺地域の方々も美味しいんだと言われるのだと思います。

<のぎとり>

亀の尾はコシヒカリやササニシキなどと違って種籾に長い禾(ひげのようなもの)があります。


        左、亀の尾  右 コシヒカリ                    脱ぼう機で禾(のぎ)をとります。

この禾をとっておかないと播種機で上手く種まきが出来ないのです。古代品種ほどこの禾があります。亀の尾は通常のお米より、なにかと手間がかかります。

<種籾の選別、消毒>

どんな作物でもそうですが、栽培するうえで、一番大切なことは種の選択です。その種の良しあしで、生育も変わります。

なので出来るだけしっかりした種を選ぶ必要があります。 

良い種を選ぶために塩水選と言って、塩水に種籾を入れ、沈んだものだけを使います。

塩水選で種籾を選別したあと、約60℃のお湯に7分程つけて殺菌します。

     湯温消毒をしている所です。

 

湯温消毒が終わったあと、水の中へ種籾をつけます。ここ信州、松川村は標高が600m以上あり、夏は短く、冬は寒さが厳しい所です。いつ冷夏が来るかもわかりません。そのためにも寒さに打ち勝つ強い種籾になってもらうために、かわいそうな氣はしますが、約1ケ月の間、冷たい水の中で過ごしてもらいます。

温暖な地域ではこんなことをする必要はありませんが、この北国で無農薬、無肥料で作ろうと思えば、手間はかかりますがこれも大切な事だと思っています。

 

川からの冷たい水を種籾の入った大きなバケツに入れて約1ヶ月間浸水します。

<種まき>

バケツから取り出した種籾をお日様にしっかりと乾かしてもらいます。 


一般的にはこのあと催芽と言って、種籾を32℃ぐらいのお湯につけて芽出しをします。うすることによって、発芽が揃うのですが、自然界では種をお湯につけて発芽をするということはないので、我が家は催芽はせず、お日様に乾かしていただいたあと、

そのまま種まきをします。


                           種まきをしている所です。

 

<育苗>

種まき後、一般的にはハウスの中で温度管理をされながら育苗しますが、我が家はいきなり田んぼに出します。


田んぼの中に苗床を作り、そこに苗箱を並べ、その上に寒冷紗をかぶせます。

信州の5月初旬といえばまだまだ寒い時期ですが、早い段階から自然と同じ環境にすることによって強い苗に育っていきます。

 

 

寒い中、種籾くんたちは自分たちの力で芽を出しました。

 

 


催芽をしていないので、芽が出るまでにだいぶ時間がかかりましたが、無事発芽をし、お日様の光をいっぱいあびて順調に育ってくれました。乾燥すれば水を入れ、早い時期から田んぼと同じ環境にします。水の中で育った苗は病気にならないので、当然、

薬剤も必要なくなります。

<田んぼの準備>

春の田んぼは草がいっぱいです。

 

草がボウボウの田んぼをトラクターで耕します。 

 



トラクターで耕運後の様子です。

<田植え>

代掻きを終え、田植え前の様子です。

 

 

今年(平成28年)は、田んぼの面積が昨年の4倍に増えたため、田植え機を購入しました。


初めての田植え機での田植え。かなりゆがみましたが、無事にすべての田んぼの田植えが出来ました


           田植え後の様子です。小さな子供たちが大海へ。強く、大きく、たくましく育っておくれ!

 

<補植>

田植え後、欠株(苗が植わっていない場所)が出た所を歩いて植えてきます。

補植は単に空いた所に苗を植えるだけでなく、苗くんたちの状況を見る事、苗くんたちに話しかける事など、とても大切な作業なのです。

 

植えて間もない赤子の苗くんたちにとって、「大丈夫だよ」「強くたくましく育とうね」「お天道様が守ってくれているよ」と言ってあげると、

苗くんたちはきっと安心して成長出来ると思うのです。

 

「稲は人(主人)の足音を聞いて育つ」とはよく言ったもので、本当にその通りだと思います。

お稲さんは、私達の声を聞き、足音を聞いて、きっとエネルギーに満ち溢れたお米になってくれると思います。


                     1本、1本愛情込めて植えていきます。 

<除草>

無農薬栽培で一番大変なのが除草対策です。れをほっておくと、お稲さんが草に負け、成長、収穫に大きく響きます。なので、一般的には除草剤を使用します。しかし我が家は除草剤を使用しないので、除草機と手取りで草をとっていきます。


     田植え後、苗が活着後、除草機を押していきます。苗くんたちをつぶさないようにするため、かなり神経を使います。


      手押しの除草機を押している所です。              手で草を取っている所です。


      草取りのお手伝いに感謝です。                 クログワイです。除草には手強い草です。

田んぼには多種多様の草がありますが、除草剤をまけば、ほとんどすべての草を抑え込む事が出来ます。

そして田んぼには稲だけが育っているのです。

 

自分で草を取っているとわかりますが、あれほどの草を抑えるとは、除草剤は本当にすごいなと思います。

草取りはかなりの重労働です。除草剤を使いたくなる気持ちもわかります。しかし本当にお米には影響はないのだろうかと思ってしまいます。

 

田んぼの中には、草もあり、さまざまな生き物がいてこそ、自然だと思うのですが・・・・。

<草について>

草取りは大変ですが、草は決して敵ではないのです。そこにたくさん生えるのは、そこに生える理由があるからです。たとえば強害草と言われる「コナギ」ですが、確かにこれが田んぼ一面生えるとお稲さんは負けてほとんど実のならなくなります。しかしコナギによって、土が浄化されるのです。自然は常に元に戻ろうとする力が働きます。その場所が汚れ、傷んでいるので草が生え回復しようとしてくれているのです。確かに栽培ということを考えると、草はとらなければなりません。それゆえ、我が家では草を取るときは、草さんに、「田んぼさんを綺麗にしてくれてありがとう」と言って取っています。

<成長>

田植え後、お日様の光を浴びて、お稲さんはゆっくりと育っていきます。無肥料のため、成長はかなり遅いです。他の田んぼと比べると、本当に大丈夫?と思うぐらい遅いです。


      田植え後、約1か月目の様子です。     

               

他の田んぼでは、すでに稲と稲の間が見えないぐらい大きく成長しています。しかし我が家の田んぼはまだまだすかすか状態です。肥料をまいていないので、稲は自分で根をしっかり伸ばして栄養を取りにいかなければなりません。大きくなる前にまず根を伸ばすことが大切です。これが結局は強い稲へと成長していくことにつながります。収穫前、お稲さんが倒れている田んぼが見かけられますが、あれは肥料過多で、お稲さんがしっかりと根をはっていない証拠なのです。

                   田植え後、2ケ月目の様子です。

だいぶ大きく成長してきました。肥料をやっていないと、草と一緒で葉はとても淡い緑色になります。野菜などもそうですが、肥料をあげていると葉が濃い緑色になります。

肥料の過剰投入は、自然環境や健康にも悪影響を及ぼします。特に窒素肥料に含まれている硝酸態窒素の過剰摂取は十分注意しなければなりません。EUでは、作物が含む硝酸態窒素の制限があるくらいです。


田植え後、2ケ月と少しで待ちに待った穂が出てきました。右の写真はお稲さんが開花している所です。とても可憐ですね。写真は「亀の尾」という品種ですが、禾(のぎ)が長いのが特徴です。

               亀の尾 穂が出てからさらに20日ほど経った様子です。

ほとんどすべての穂が出て、さらに穂に実が入り始め、頭が垂れてきました。写真ではわかりにくいですが、穂が立っている時の姿は本当に神々しいです。お米はお天道様からの、大切なありがたい贈り物だなあとつくづく実感します。


     亀の尾  田植え後、約3ケ月です。                   亀の尾  穂も垂れ、色も黄色くなってきました。

 

っかり、お米らしくなりました。収穫まであとひと踏ん張りです。しかしこれから台風シーズンに突入です。ただただお稲さんに頑張ってもらうしかありません。まだまだ氣が抜けない日が続きます。


収穫間近の田んぼの様子です。

いよいよ収穫が近づいてきました。田植えをしてからまもなく4ケ月。田んぼ一面黄金色に染まり有明山から虹が出ていました。

「亀の尾」くんたちが朝陽を浴びてとても嬉しそうでした。

無農薬、無肥料で本当にここまでよく育ってくれました。ありがとう。お稲さんたちを見ていると氣持良さそうでした。お天道様がお稲さんたちをしっかり守ってくれたのです。おかげでお稲さんたちは、すくすくと育つことが出来たのだと思います。ただただ感謝です。

<稲刈り・はざ(はぜ)掛け>

バインダーという機械で稲を刈り取っていき、その束をはざ(はぜ)棒に掛けていきます。1週間から約1ケ月かけて(天候によって前後します)お日様にしっかりと乾かしていただきます。

                          稲刈り前の「朝日」

 


     亀の尾 バインダーで稲刈り中                     はざ棒を運んでいる様子


          「亀の尾」をはざ棒にかけている様子                「朝日」をはざ棒にかけている様子


田んぼがぬかるんでいる時は、バインダーで刈り取った稲を手で受けながら、いったんブルーシートに置いてそれからはざ掛けをしなければならず、手間が2倍も3倍もかかります。

 


           稲刈り終了の万歳!                                  稲刈り終了後の全体の様子


        「亀の尾」のはざ掛けの様子                             「朝日」のはざ掛けの様子

 

平成28年は本当に長雨に泣かされました。台風と突風にも泣かされました。


        台風ではざが倒されました。                 突風ではざが倒されました。

自然が相手なので、なにが起こるかわかりません。はざが倒れると正直かなりがっくりきますが、美味しくてエネルギーのある

お米を作るためにも、頑張ってはざ掛けでやっていきたいと思います。

人工的に熱を加えて乾燥させるより、自然の力で、お日様の力でじっくりと乾燥していくほうがお米の持つエネルギーが全然違うように思います。

 

<脱穀>

お日様に十分乾燥していただいた後は、ハーベスタという機械で脱穀をします。


         「朝日」の脱穀中                        脱穀終了

脱穀し終わったお米は籾のまま蔵の中に保管します。

<藁カット>

脱穀が終わって終わりではないのです。脱穀し終わった藁を今度は小さくカットして田んぼ全体に蒔くのです。長い藁のままだと、なかなか分解せず、また春トラクターで田んぼを耕す時にロータリーに絡まるのです。


         藁切りカッターで藁を切っている所です。                藁切りカット終了。

                   藁カッターで藁をカットした後の様子です。

 

小さくなった藁を一輪車などに積んで田んぼ全体にまんべんなく蒔きます。コンバインならお稲さんを刈りながら藁も小さく切っていってくれるのでこの様な作業はありません。

無農薬、無肥料、天日干しでやろうと思えば本当に手間暇がかかります。しかし私たちはお米は何よりも大切だと思っているので、このスタイルを続けていきたいと思っています。